ALB AUGUST 2023 (JAPAN EDITION)

5 ASIAN LEGAL BUSINESS – JAPAN E-MAGAZINE WWW.LEGALBUSINESSONLINE.COM 「諸外国と同様、日本においてもESGはあらゆる種類のビジネスにとって、良くも悪くも非常に重要 です。良い面としては、ESGは新たな機会をもたらしますが、その反面、各企業が扱いを誤ると、評判 や経済への影響、さらには法規制に抵触するリスクが生じる可能性があります。さまざまなステーク ホルダーが、取引のある企業に対して環境的に持続可能なビジネスの運営をますます求めるように なっています」 - 高松顕彦、ノートン・ローズ・フルブライト法律事務所外国法共同事業 世界有数の経済規模を持つ国の 1つとして、日本は環境、社会、ガバナン ス(ESG)の規制に関して、時代を先取り してきた。 今年の2月10日、政府は「グリーント ランスフォーメーション(GX)実現に向 けた基本方針」を閣議決定し、2050年 までにCO2排出ネットゼロを達成する という国としての目標を打ち出した。こ の基本方針が最終的に目指すのは、産 業構造の転換である。化石燃料に大きく 依存している現状から脱却し、グリーン エネルギーの活用を目指していく。 GX実現に向けた基本方針では、今 後10年間を見据えて22の産業部門の 発展について広範な対策が示されてお り、原子力の使用や再生可能エネルギ ー源の拡大はもちろん、カーボンプライ シングメカニズムの導入等も盛り込み、 日本のクリーンエネルギーへの移行促 進を宣言している。また、廃炉となった 原子炉を次世代革新炉に建て替える取 り組みにも言及した。 今後推進していく取り組みとして は、成長志向型カーボンプライシングの 導入、規制・支援一体型投資促進策、新 たな金融手法の活用、アジア・ゼロエミ ッション共同体の構築を含む国際戦略、 企業・官公庁・大学が協働するGXリーグ の構築、という5つのイニシアチブが挙 げられている。 ノートン・ローズ・フルブライトの東 京事務所でパートナーを務める、高松 顕彦弁護士は、「ESGのE(環境)に関し ては、今すぐ脱炭素するのが理想的では あるものの、日本では『移行』が強く求め られています。温室効果ガスの排出量削 減という目標は諸外国と同じですが、実 現のためのアプローチは地域によって 若干異なる場合があります」と述べる。 今回の「GX実現に向けた基本方 針」が決定される前から、政府はESG 推進のため幅広い施策を打ち出してお り、ESGデータ・評価提供機関向け行動 規範の最終案決定、ESG公募投信の範 囲を定める新たなガイドラインの提案、 上場企業のESG情報開示義務化等を行 なってきた。さらに最近では、日本初と なるインパクト投資に関するガイドライ ンを発行したことも、当該分野に対する 市場の関心の高まりを示している。 こうした動きによって、ESG施策を 取り巻く日本の法的環境は急速に変化 している。 「諸外国と同様、日本においても ESGはあらゆる種類の事業にとって、良 くも悪くも非常に重要です。良い面とし ては、ESGは新たな機会をもたらします が、その反面、扱いを誤ると、企業のレピ ュテションや業績への影響、コンプライ アンス・リスクが生じる可能性がありま す」と高松弁護士は話す。 日本では、ESG推進のため、いくつ かの施策が実施されている。 規制を取り巻く状況が急速に変化す るなかで、「法的助言に求められる内容 も、こうした傾向を受けて変わっていき ます。最先端の脱炭素化手法に焦点を当 てつつ、同時に移行についても適切な助 言を行う必要があります」(高松弁護士) 情報開示の義務化 上場企業の業績は、市場では常に重視 され注目されている。金融庁は今年、上 場企業に対する、サステナビリティ及び コーポレートガバナンス情報の開示を 発表した。 この変更は、今年度の年次有価証 券報告書及び有価証券届出書から適用 される。 「今回の改正で、上場企業には ESG関連情報の開示が義務付けられる ことになりました。サステナビリティに対 する考え方や取り組みについての情報、 すなわちガバナンスやリスク管理に関 する事項の開示が求められています(戦 略、指標、目標等は、各企業が重要性を 踏まえて開示を判断)」と、リンクレータ ーズ外国法共同事業法律事務所でマネ ージングアソシエイトを務める白木さや 子弁護士とEriko Kadota弁護士は、書 面で述べる。 また、人的資本・多様性に関する情 報も開示が求められており、人材育成 方針や社内環境整備方針、当該方針に 関する指標の記載が必要となってくる。 「関連する法規制によって、企業が 女性管理職の割合に関する情報の公開 を求められるのであれば、育児休暇を 取得する男性従業員の割合や男性従業 員と女性従業員の給与格差も、年次有 価証券報告書等で開示する必要がある でしょう」と白木弁護士とKadota弁護 士は指摘する。 「日本では、官民双方の取り組みに よって、環境(E)の要素が強く推進され ていますが、その他2つ柱である社会(S) とガバナンス(G)はそれほど進んでいな いようです」と高松弁護士は述べる。 改正では、将来の見通しに関する記 述や虚偽記載に関する責任についての 説明も求められ、これまで不足気味だっ た社会(S)及びガバナンス(G)について も追加で義務が盛り込まれている。 インパクト投資 日本初のインパクト投資に関するガイド ラインも策定され、この分野への関心の 高まりも示された。 これは日本に限ったことではない。 インパクト投資は世界的に成長してい る市場であり、特に欧州と米国では著し い成長を見せている。 インパクト投資では、日本は若干後 れをとっているものの、最近では企業の 注目も高まってきている、と高松弁護士 は言う。そして、この分野における成功 のカギは「開示」だ。 「十分かつ一貫した情報開示が行 われ、投資家が評価できるようになれ ば、この分野は進化するでしょう」(高松 弁護士)

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