ALB AUGUST 2023 (JAPAN EDITION)

6 ASIAN LEGAL BUSINESS – JAPAN E-MAGAZINE AUGUST 2023 つまり、日本は現在、インパクト投 資については、他の先進国に追いつく べく対策を講じつつ、ESG規制環境を より強化するためのさまざまな取り 組みも進めている状態だ、と言えるだ ろう。 金融庁は6月30日、インパクト投資 等に関する検討会報告書を公開し、そこ でインパクト投資に必要な要件を定め ている。この報告書に対するパブリック コメントは、2023年10月10日まで募集 されている。 今後策定される、インパクト投資に 関する基本的指針では、要件として「新 規性」「特定・測定・管理」「追加性」「意 図」の4つが求められる見込みだ。 金融庁は、インパクト投資の恩恵 を受けた人の数や、削減された温室効 果ガス排出量等の客観的指標を使用し て、投資の影響と収益性を開示するよう 促すことにより、誤解を与えるような資 金調達を阻止し、正しい情報に基づい た投資判断を可能にすることを目指し ている。 金融庁がサステナブルファイナンス 有識者会議に「インパクト投資等に関す る検討会」を設置したのは、2022年10 月のことだ。同検討会は今後も、国内外 のインパクト投資の動向や事例を参照 しつつ、社会的・環境的問題の解決や、 スタートアップ等の新たなビジネスの創 出に寄与するインパクト投資を拡大する 方法の検討、といった役割が期待されて いる。 FTSE Russellのレポートによれ ば、日本におけるESG投資では、透明性 の高い手法に基づく定量的ESGスコア を使用したパッシブ投資のニーズと需 要が、今後さらに高まることが予想され るという。 データと評価 こうした、より包括的なESG格付けやス コアが求められている状況を背景に、日 本はデータ提供機関が使用する格付け や方法論の透明性を改善する取り組み も強化している。 ESG資産の価値は2025年までに 53兆ドルに達することが確実視されて おり、規制対象外のESGデータ提供機 関が業界全体に及ぼす可能性のある実 質的影響への懸念が広がっている。 証券監督者国際機構(IOSCO)は 2021年の報告書で、評価基準の欠如 が、グリーンウォッシングや資産の不適 切な配分といったリスクにつながるので はないかと懸念を示した。 こうした懸念に対応してサステナブ ルファイナンス有識者会議報告書に盛 り込まれた、ESG評価・データ提供機関 の監視強化を求める提言を受け、金融 庁は2022年12月に「ESG評価・データ 提供機関に係る行動規範」の最終案を 公表し、行動規範の受入れ表明の募集 を6ヵ月間行った。 この行動規範案の目的は、インベス トメント・チェーンで使用されるESG評 価やESG関連のデータの信頼性を確実 なものにすることだ。すなわち、「ESG評 価・データ提供が、各主体による創意工 夫に基づき更に改善されることを促し、 また、将来的なビジネスモデルの変化 等に対しても柔軟性を確保」することで ある。 金融庁のチーフ・サステナブルファイ ナンス・オフィサーである池田賢志氏は、 まだ導入段階の初期ではあるが、この行 動規範によってデータ提供機関と規制 当局間の対話が開かれたと述べている。 また、金融庁の総合政策課長であ る高田英樹氏は、取材に対して、金融庁 はこの行動規範によってESGデータや 評価サービスの透明性と公平性が向上 し、ESG市場の発展が進むことを期待し ていると述べた。 取り締まりと自主性のバランスとい う点では、日本のアプローチは「義務よ りも柔軟性に力を入れている」と高田氏 は言う。 そのため、同行動規範は「コンプラ イ・オア・エクスプレイン」ベースの自主 性を重んじる規範として設計されている。 今回、この行動規範が公表された ことにより、日本で事業を展開している ESGデータ提供機関は、これに定めら れている6つの原則の遵守が求められる ようになる。 6つの原則は、ESG格付けやデータ の品質、基本手順の確立、格付けとデー タ提供サービスの質を保証するための専 門的な人材の確保、専門スキルの開発、 独立した意思決定を行うための方針、利 益相反に適切に対処する方法等だ。 エネルギー経済・財務分析研究所 (IEEFA)のエネルギー経済アナリスト、 ヘイゼル・イランゴ氏は、今年2月に「完 璧ではないとしても、金融庁のアプロー チにより、日本はESG格付けの透明性と 機能の改善に一歩近づくでしょう。ただ し、この自主的行動規範の効果は、この まだ新しい分野において試験段階にあ ります。多様な格付け結果が出てくる可 能性に関する規制当局の寛容な姿勢に も疑問が残ります」と指摘している。 FTSE Russell、MSCI、サステナ リティクス、リフィニティブ、Moody’s ESG、ISS ESGの各社はこの行動規範 を支持する公式声明を発表した。 ESG格付けやデータ提供機関向け の基準整備に取り組んでいるのは日本 だけではない。英国とシンガポールで も、それぞれ独自の行動規範の設定を 進めている。 グリーンウォッシングの撲滅 日本の金融庁は、ESG投資を促進しな がら投資信託運用会社によるグリーン ウォッシングを撲滅するための、一連の ガイドラインも打ち出している。 このガイドラインでは、ESG公募投 信の範囲が定められ、ESG公募投信に 関する情報開示や、投信の運用管理に 関するチェックポイントも盛り込まれて いると、モルガン・ルイス&バッキアス法 律事務所のパートナー、文永智子弁護 士と、同事務所のオブ・カウンセル、長野 享子弁護士は述べる。 ESG公募投信とは、投資選択を行う 際の主要な要素としてESG要素を使用 し、その旨を要約目論見書に記載してい る公募投資信託のことを言う。ガイドラ インでは、投資信託運用会社は投資の 選択において使用される特定のESG要 素、それらの要素がどのように考慮され るか、投資プロセスにおける制限とリス ク、あらゆるESG関連のスチュワードシ ップコードについての方針を開示するよ う求めている。 また、実際の投資の比率、実 績、ESG関連のスチュワードシップコー ド方針に基づいて行われた活動の継続 的な開示も求められる。投資信託運用 会社が投資権限を委任する場合、委任 する運用者のデューディリジェンスを実 施し、あらゆる関連事項について開示し なければならない。 管理面では、適切なリソース(デー タ、ITインフラ、人材等)を確保し、ESG 公募投信の投資戦略に沿った投資管理 の監視を行うよう求めている。 投資運用管理活動が委任されてい る場合、投資信託運用会社は戦略、ポー トフォリオ、参照すべきベンチマーク、継 続的な開示に関する事象についてデュ ーディリジェンスを実施するための適切 な体制を整える必要がある。 また、ESG評価やデータ提供を行う 機関を対象として、その評価の対象、手 法、制約及び目的を理解するため、内部 統制のデューディリジェンスを実施する ことも求められている。

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