ALB DECEMBER 2023 (JAPAN EDITION)

5 ASIAN LEGAL BUSINESS – JAPAN E-MAGAZINE WWW.LEGALBUSINESSONLINE.COM クラスのトップに挙がる資産です。グリー ンバーグ・トラウリグでは、ここ3年間だけ でも、国際的な不動産ファンド、ファミリ ー・オフィス、資産運用会社等の依頼を受 けて、大規模なポートフォリオの契約を15 件以上締結させました」と、ロスティン弁 護士は言う。 また、コロナ下のロックダウンを経 て、多くの大企業がオフィス勤務の再開を 呼びかけているため、オフィス・スペース の需要も急増している。 「投資が動いている意外なアセット クラスのひとつが、オフィスです。世界の多 くの市場と異なり、日本ではコロナ明け にリモートワークからオフィスへ戻る動き が強く、今ではオフィス勤務が一般的です から、テナント構成が適切に設計された 立地の良いオフィスビルは、今も世界の 投資家からの関心を集める物件です」(ロ スティン弁護士) 地方にも広がる投資 これまで、不動産投資は主に東京と大阪 で急増してきたが、大都市の不動産価格 の高騰や他地域の急速な都市化もあり、 海外からの不動産投資は全国に広がって きている。 「日本は人気の投資先であるため、 競争は激しくキャップレートは圧縮され ています。それに促されて、投資家は、投 資先を東京や大阪以外にも広げてきてい ます。入札の競合がこれらの大都市圏ほ ど厳しくない名古屋や福岡、札幌に進出 する海外投資家は増えており、実際ここ2 〜3年にグリーンバーグ・トラウリグが手 がけた契約の30%以上が、東京と大阪以 外の地方都市への投資です」と、ロスティ ン弁護士は話す。 ホワイト&ケースの宇佐神弁護士も、 大阪、名古屋、福岡といった大都市ではオ フィス・インフラが著しく進歩しており、そ れが各都市の地域経済の成長を促進し ていると説明する。 また、服部弁護士によれば、観光地と して人気のあるニセコや長野が投資先と して価値が高いことはさることながら、外 資系ホテルのなかには、日本の首都圏や 近畿以外の地方での事業展開に乗り気 なところもあるという。 規制と契約 このように日本の不動産市場における海 外投資の状況はおおむね安定しているも のの、今回取材した弁護士が口を揃えて 指摘するのが、日本語が障壁になる等の 要因によって規制対応が難しいことが投 資の妨げとなる可能性だ。 「日本の法律は、海外投資家が TMK(特定目的会社)等、既存の枠組み を活用する手段を提供し、税制上の優遇 措置を受けられるようにしています。た だ、不動産投資には、国と地方の両方の 規制に対応しなければならないため煩雑 です」と宇佐神弁護士は言う。 ロスティン弁護士は、日本の法律を 遵守しつつインセンティブを活用したうえ で投資契約締結を進めようとすると、あま りの複雑さにほとんどのクライアントが 困惑すると話す。 「初めて日本で投資契約を締結する クライアントに、日本で推奨されている、 日本のオンショアとオフショア両方での 所有権と投資構造を示す構造図を見せる と、ほとんどの場合、なぜこのチャートは こんなに複雑なのか、と聞かれます」 同弁護士は、不動産の投資契約の複 雑さには、大きくわけて3つの側面がある と言う。まずはタックス・プランニング、次 に許認可、そして貸し手側からノンリコー スローンを求められることだ。 「海外から日本に投資を行うクライ アントに対しては、所有権と投資構造を 最適な形で完全に確立させてから取引を 開始するようにと、必ず助言しています。 投資構造に不都合な点があるままで契約 してしまうと、大きな損失を被ることにな りかねないからです。締結後に契約内容 の見直しを行うとなると、多額のコストが かかったり、税制面で損をしたりする可能 性もありますから」とロスティン弁護士は 言う。 日本では外国人の不動産購入に特 に制限は設けられていない。ただ、服部 弁護士によれば、新たに制定された法律 でいくつか土地の取得に関して制限事項 が定められており、コンプライアンスの観 点からも、投資を行う前にこれらの規制 を確認しておくことが重要だという。 「日本では2021年に『重要施設周辺 及び国境離島等における土地等の利用 状況の調査及び利用の規制等に関する 法律』が制定されました。この法律は、防 衛関係施設や原子力発電所等の周辺区 域を注視区域に指定し、区域内にある土 地等の利用状況を政府に届け出るよう義 務付けています。外国人投資家はこの法 律による規制対象となる場合があり、デ ューディリジェンスのプロセスにおいては 注視区域に注意する必要があるでしょう」 もうひとつの課題として、日本では、 日本語に堪能な専門家抜きで土地を購 入するのが困難だという点がある。これ は日本の不動産市場の性質が内向きで あるためだ。 「日本の不動産市場はその大部分 が国内規模で運営されており、言語障壁 は非常に大きい可能性があります。日本 への投資には、国内市場と国際市場の違 いについて知見を提供できるバイリンガ ルの専門家の関与が欠かせません」と宇 佐神弁護士は言う。 また服部弁護士は、必要な登記書類 を入手し、日本語で書かれている内容を 精査するためには、不動産の専門家が必 要な点も指摘する。 「海外投資家が日本政府のデータ ベースに日本語で掲載されている登記情 報を確認することは、非常に重要なプロ セスですし、不動産を取得した際には、登 記をして権利を確定させておくことも大 切です。登記をしておかないと、誰かにそ の物件を購入され、先に登記をした方が 優先されてしまう恐れがあります」 重要な現地チーム 日本の不動産市場が内向きなこと、言語 や文化の壁があることを踏まえ、弁護士 はクライアントに対し、現地に拠点を置い て日本特有の規制に対応するよう助言し ている。 宇佐神弁護士は、「海外からの投資 家の多くが、弁護士や不動産業者等、バイ リンガルの現地エキスパートに業務を依 頼しています。ディベロッパー等、日本の 市場参加者とジョイント・ベンチャーを設 立するというのも、リスク低減としてよく ある方法です。安定した情勢が続く日本 は、海外投資家にとっては有望な投資先 ではありますが、投資を成功させるため には、さまざまな不動産サイクルを経験し てきた法律事務所の力が特に重要になっ てくるはずです」と話す。 ロスティン弁護士も同意見で、クライ アントには常時、適切な投資先を見つけ て契約を締結するには、日本に専任のチ ームを置くか、現地の投資家と共同で投 資を行うべきだと助言しているという。 「競争の激しい市場では、投資対象 の価格よりも投入できる資本の総額が多 いため、熱心な投資家が適正価格よりも 高い値段で不動産を取得してしまう可能 性もあります。厳密なデューディリジェン スと物件のアンダーライティングが最重 要であることに変わりはありません。現地 にチームを置くことで、投資の価値をより 適切に評価できるようになるでしょう。市 場には出ていない物件のなかにこそ、最 高の投資機会が存在していることもあり ます。そうした機会は、日本に拠点を置く ことによってこそ培われるつながりのな かから見つかることが多いのです」

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