ALB OCTOBER 2023 (JAPAN EDITION)

4 ASIAN LEGAL BUSINESS – JAPAN E-MAGAZINE OCTOBER 2023 このように投資が集まる理由のひ とつに、ベトナムの急速な経済成長があ る。ベトナムのGDPは2022年に8.02% 。これは過去10年間で最も高い増加 率だ。 国際投資・国際取引関連のリーガル サービスを取り扱う明倫国際法律事務所 で代表パートナーを務める田中雅敏弁護 士は、事業費と投資コストが抑えられるこ ととベトナムの経済成長の2つが日本企 業がベトナムでの事業を拡大する主な要 因となっていると述べている。 これまでは、低コストが投資牽引の一 番の要因であったが、市場の拡大が見込め るようになり「当初は事業費が比較的手頃 だからとベトナムに目を向けていた企業 も、ベトナム市場に狙いを定めるようにな ってきています」と田中弁護士は述べる。 日本貿易振興機構(ジェトロ)が今年 発表した報告書によれば、アジア太平洋 地域で投資を行う日本の投資家の60% が、ベトナムでのビジネス拡大に意欲を 示している。 「教育、経済、ガバナンス、法律の 変化、地理的な重要性と人口の多さか ら、ベトナムは引き続き日本企業にとっ て魅力的な投資対象となるでしょう」と Indochine Counsel法律事務所でシニ ア・カウンセルを務める、グエン・クオッ ク・ビン弁護士は言う。 注目分野と産業 ベトナムは、単なる製造拠点にとどまら ない存在になることを目指している。政 府は2021年から2030年までの国家基本 計画を策定し、科学、テクノロジー、イノベ ーション、デジタル・トランスフォメーショ ンを推進することで、2030年までに近代 的な産業基盤を備え、安定した経済成長 を実現する高中所得国になるというビジ ョンを掲げている。 この目標を達成するには、国外からの 援助を受けて産業基盤の開発を進める必 要があるだろう。ベトナムは日本企業に働 きかけ、インフラ、エネルギー、製造、ハイテ ク農業、IT、スマート・シティー開発、金融 サービス、銀行業務、イノベーションといっ た分野への投資拡大を呼びかけている。 「近年、日本企業が関心を寄せてい るのは、B2B分野の製造業やIT産業、そし て教育、化粧品、ヘルスケアといった産業 のようです」と田中弁護士は言う。 One Asia Lawyersベトナムオフィス の代表を務める松谷亮弁護士も、ベトナ ム政府の積極的な働きかけもあり、今後 はITとヘルスケアが成長分野になるだろ うと見ている。 Indochine Counsel法律事務所の グエン弁護士は、今後投資家の注目が高 まるであろう分野として、ITや高齢者向け ヘルスケアを挙げている。IT分野におい て、ベトナムでは十分な訓練を受けた熟 練の人材を比較的低い賃金で雇うことが できるという。 日本の高齢化問題も、投資家による ヘルスケア業界での機会模索を後押しす る要因になりそうだ。 「今後数十年にわたって、高齢化社会 がもたらす課題により、医療制度の面では 困難な状況が増えていくでしょう。高度なヘ ルスケアサービスや、高齢者向けの補助製 品で知られる日本にとって、ベトナムは事業 機会の拡大を見込める投資先として映る 可能性もあります」とグエン弁護士は話す。 ビラフ法律事務所のハノイマネージ ングパートナーであるゴック・アン・ブイ弁 護士によると、日本企業は、新興産業だ けでなく、銀行や金融、製造、消費者向け 製品といった従来の分野も引き続き注視 しているという。 「日本の投資家はこうした既成の分 野にも精通してきており、初期の投資か ら確実に一定の利益を得てきました。少 額の“試験的”投資を通じて、ベトナムの パートナー企業とのさまざまな連携方法 について実践的な経験も積み重ねていま す」とゴック弁護士は言う。 LNT & Partners法律事務所のパー トナーであるグエン・アン・トゥアン弁護 士は、日本の投資家の注目は他の分野や 業界に移行しつつあるものの、製造業は 依然として最も人気を集めているとして おり、実際に製造業は2020年の日本の FDIの60%以上を占めている。 西村あさひでベトナムプラクティスの パートナーを務める小口光弁護士と大矢 和秀弁護士によれば、エネルギー分野、 特に再生可能エネルギーへの移行が、ベ トナムの日系企業から大きな注目を集め ているが、それは今年に入ってベトナムの 第8次国家電力基本計画(PDP8)が承認 されたためだという。 この計画では、2030年までに1,350 億米ドル、2050年までに追加で4,000億 ~5,200億米ドルの投資が必要になると 試算されている。 法的課題 日本企業がベトナムで事業を開始する際 には、さまざまな法的・規制上の課題に 直面する可能性があるが、その背景には、 法令の整備が行き届いていないこと、そし て行政の裁量が大きいことがあると、松 谷弁護士は指摘する。 ビラフ法律事務所のゴック弁護士 は、経済が複合的になる中、ベトナムの法 制度はより精巧で複雑なものになってき ていると述べる。 例えば、新規プロジェクトへの投資 家を選択する方法が入札へと変わったこ とで、投資を検討している日本企業は、新 しい未開拓の投資機会を見つけるのが難 しくなっているという。 しかし、「LNG to Powerのような新興 投資分野では、多額の資本や、Vietnam Electricityのような信頼できるベトナム のパートナー企業が必要となることもあ り、投資の実行やプロジェクト資金調達に 関して新たな規制が適用されています。企 業結合届出に関する規制もますます厳し くなり、手続きに時間がかかるようになっ ています」とゴック弁護士は述べている。 LNT & Partners法律事務所のグエ ン弁護士も、法律の曖昧さ、司法制度の 予測のつきにくさや信頼性に関する問題 が、日本企業にとって課題となる可能性 があると認めている。 「ベトナムの法的環境、特に指針と なる法律文書や先例が少ないために法 的にグレーな部分が残る問題や領域は、 日本企業にとって困難の多いものとなる でしょう。実際に、法の曖昧さが原因で複 数地域に法律を適用する際に矛盾が生じ る可能性があります」と同弁護士は言う。 Indochine Counsel法律事務所の グエン弁護士は、日本の投資家は法律事 務所の助言を得てリスクを最小限に抑え る必要があると提言する。 「法律事務所に相談すれば、ベトナ ムの法制度の理解、特定の法的要件への 対応についての助言が得られ、政策や法 律の解釈においては、投資家と行政機関 の間にある齟齬を埋める役割も果たして くれるでしょう」 また、松谷弁護士によれば、ベトナム において事業を新規に展開・拡大しよう とする場合には、上記のような問題点に どう対応すべきかについて、ベトナムの現 地の法律、会計・税務の専門家と連携を 取り、適切な助言を受ける必要があり、そ のためには、細かなことでも相談できる 体制を構築できるよう、普段から現地専 門家と関係性を構築しておくことが重要 であるという 。 最後に、「One Asia Lawyersベトナ ムオフィスは、実務経験の豊富な専門家 として、クライアントとの強固な関係を構 築したうえで、外国事業におけるリスクを 分析し、クライアントによるビジネス上の 意思決定が円滑に進められるサポートを しています。」と松谷弁護士は述べた。

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